東京高等裁判所 昭和29年(ラ)449号 決定
競売期日の公告には少くとも競落人に対抗できる賃貸借につき民事訴訟法第六五八条第三号に規定する事項の掲載がなされねばならぬことは所論のとおりであるが、記録中の裁判所書記官作成の控(記録第七五丁)によれば、本件昭和二九年九月八日の公告には抗告人主張の如く「賃貸借なし」との記載がなされたのでもなければ又、「賃貸借なし」との記載に加え僅かに但書を以てその(賃貸借の)内容を示す記載がなされたということもなく、賃貸借に関しては不動産の表示の次に「但し右建物中拾九坪の建物中西側八畳一室を昭和二十八年八月頃より田中忠一に賃貸、賃料は不明、期間の定はない、権利金四万円、その一室には田中忠一単身にて居住する。」と記載されたのであることが分り、この記載は賃貸借の存在を示すものとしては十分であるといえる。問題は右のうち「賃料は不明」なる記載を以てしては民事訴訟法第六五八条第三号にいう借賃の記載がないことになるか否かである。
この点について考えるに、記録によれば本件においては競売申立人から借賃を含む賃貸借関係事項につきその取調べの申請があり、裁判所はこれにもとずいて執行吏をしてその取調べをなさしめたのであり、そして裁判所は執行吏の「賃料は不明」その他の賃貸借関係事項の取調べ結果の報告にもとずき前記のような賃貸借関係の公告をしたものであることが分る。ところで執行史の取調べに手落ち、不足のあつたことを窺うべき資料は存しないから右取調べは職責に従つて誠実になされたものと認めるの外なく、従つてかような取調べの結果なお賃料不明であつたからその旨の報告がなされたのであり、裁判所は誠実な調査にもとずく報告によつて「借賃は不明」という公告をしたものというべきである。結局本件においては右のように、なすべき調査を尽した上で借賃不明の公告がなされたことになるのであつて、かような場合は法の要求する借賃の公告がなされなかつた場合として不適法にはならないというべきである。(そうでなければ難きを強いることになる。加うるに又「借賃不明」なる公告は一般に対し、競買の申込をなすべきや否や、又いかなる価額で申込をなすべきかを決定するに際し、等しく配慮――自らその取調べをした上でこの決定をするという如く――を要請することになるのであつて、かような点から考えると「借賃不明」なる公告はかの虚偽の借賃の公告が一般に対し競売申出に際しての前記のような意思決定に不当な影響を積極的に与えるのと全く趣を異にするものがあるのであつて、「賃料不明」なる公告はその作用からいつても賃料を公告事項とした法の精神を正面から没却し去るものではないといえるのである。)
記録中の前記の控(記録第七五丁)と大宮市長の証明書(記録第一三丁)によれば、昭和二九年九月八日なされた本件競売期日の公告に単に公租公課金四千八百二十円とのみ記載されていて、右は本件競売不動産の昭和二八年度分のものであることが窺われる。然し、法が競売期日の公告に租税その他の公課の掲載を要求したのは、競買人をしてこれらを知らしめ以て競買代金を決定するについての一つの標準を得せしめようとするものであるところ、本件不動産につき昭和二八年度の公租公課金と昭和二九年度のそれとの間に競買代金を決定する上に影響するような変改があつたことは認めるに足る資料がない(本件不動産は家屋であつて、一般の事例からすればかようなことはないものと認められる。)から本件公告の公租公課金の記載が前記の如くであるということだけから直ちにこの公告が法の要求する租税その他の公課の記載を欠くものとすることはできない。